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2015/10/13[Tue]
ネタ >> 近況+幼女の話


・下の記事でも書きましたが、テニプリ文化祭+最終日のトークショーに行ってきました(画像は渾身の力で光る球を打っているところです)
・SQ読んで幸村精市という一人の超存在の余りの尊さに号泣しました。
・スパークで妖怪同人誌狂いと化し、財布の中身がスパークしました。
・初期不良から復活したねんどろいど加州清光に色んなお洋服着せて遊んでました。
・6-4回想で号泣しつつ、加州清光折大隊をカンスト新選組でべっきべきにしつつクリアしました。

■幼女と加州清光
またまたツイッターログにちょっぴり?1000文字くらい?加筆しました?
仕事で気が狂っていた時に「元主の影響で子供に優しい加州清光はかわいかろ…」という思いを歪んだ形でぶつけたものです。本当はさいごまで書き足そうかと思ったんですが、あまりの狂いぶりにこれ以上は手を付けられませんでした。
気狂いが書いたものなので、名前とか色々適当に読み流してください。




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審神者が幼児退行した。
何かしらの実験が上手くいかなかったらしく、体は元のまま、頭の中身だけが子供の頃に逆行してしまった。一人それを押し付けられた加州は怒るのも忘れただ「なんで?」と呟いた。しかし全てはご都合主義的だ。戻らなかったらどうしよう、という危惧はあったが、技術者の見立てでは一時的なショックによるもので数日もすれば元に戻るだろう、ということだった。

膝に手をあて屈み込んで、加州は良く知っている筈の、しかし今は全く見知らぬその人間の顔を覗き込んだ。
「俺、加州清光。あんたが呼んだ、あんたの刀。分かる?」
わかんない、と彼女は小さく頭を左右に振った。まぁ、そうだろうなと特に落胆もせずに加州は思う。色素の薄い目は丸に近いほど見開かれ、不思議そうに加州のことをじっと見つめている。加州の赤い目が不思議なのか、それともこの見慣れぬ人もどきが珍しいのか。床にぺたりと座り込んだまま、「かたな?」と幼い口調で問い返した。
「かたな、かたなさん」
「そう、刀。でも分かんないなら、難しいことは今はいいや」
加州は彼女と目線を合わせるようにしゃがみこむと、赤く塗られた五指を開いて差し出した。
「俺の名前は加州、加州清光」
「きよみつ。きよ……きよちゃん?」
「あ、ちっちゃかったらそっちで呼ぶんだ」
「いや?」
「別に、嫌な訳じゃあないけどさ」
差し出された手を両手でぎゅっと握りしめる“子供”の顔に、加州は思わず眉を下げる。何もかも忘れた相手の声に悪気はない。そもそもなんであの人は俺を名前じゃない方で呼ぶんだろうと不思議になった。加賀清光、非人清光とも呼ばれた彼にとっては、どちらかといえば定まっていない部分なのだが、彼の審神者は最初から迷わなかった。
「……えっと、みっちゃんがダメなら、きよおにーちゃん」
「あれ、気ぃつかってくれてるの?」
「だって、なんか、しっくりこない」
「そうだねぇ」
これ何歳くらいかなぁ、と、子供と遊ぶのが好きだったかつての主を記憶から考える。一応会話のキャッチボールは成り立っているが、そう難しいことを考えている様には思えない。少なくとも、両の手を使って加州の爪をしげしげと不思議そうに見つめるその様子から、人を疑うことを知らないのだとは見てととれた。「きよちゃん」と結局は初めに戻った呼び方で、舌足らずに子供は言う。
「きよちゃんの手、きれいだねぇ」
「そう、いいでしょ。ちゃんとかわいくしてるからね」
「いいね、かわいいね」
「やって欲しい?」
「できるの?」
「できるできる。そっちがいいって言うんだったら、いつでもお揃いにしてあげるよ」
「ほんとに!」
キラキラとした目で加州を見上げる子供に思わずぐっときて、気付けば頭を撫でていた。少々乱暴にぐしゃぐしゃと髪を混ぜてしまっても、子供はあははと嬉しそうに笑っている。
外側は同じな筈なのに、中身が無邪気なだけで酷くあどけなく見える。そう考えてから、いや、元々はこのような顔つきだったのかもしれないと思い直した。本心を隠す口元の笑みも、何かにつけ鋭くなる目つきも、本来ならば要らなかった筈のものだ。どこまで削いでも彼女が彼女であることには変わらないが、それでも、この子供は加州の知っている審神者ではない。しかし寂しい反面いつもは見えない本質に触れたような気もしていて、複雑な思いに目線を宙に泳がせる。
「……きよちゃん?」
動きを止めた手の平の下から、不思議そうな顔が加州を見上げていた。
「ねぇ、なんにもおぼえてないの?」
「なんにもって、なに?」
「……さぁ、なんだろ。色々あった筈なんだけど」
「きよちゃん、どっか痛いの?」
「んーん、平気。ごめんね」
鋭敏に空気を悟った子供に対し、加州はすぐに笑顔を作って首を振る。
「そういえばさ、うっかり聞くのが遅くなったけど、自分の名前は覚えてるの?」
「言えるよ!」
「ホント?」
本当だよ!とからかうような加州に対し、心外だとでも言いたげに頬を膨らませる。思考と感情が恐ろしく素直に直結しているのだろう。見てて、と彼女は人差し指をたて、宙になにか文字を書くしぐさをする。
「わたしはね、ゆーり」
え?と聞き返した加州に対し、子供は今度はハッキリとした口調で「ゆうり」と言う。
「やさしいっていう漢字と、……とし?で、りって読むの。」
「……そう」
答えて笑い掛ける奥で、加州は赤い目を細めた。
教えてくれてありがとね、と言うと、子供は褒められたと思ったのか「いいよ」とどこか得意げな顔をする。それを前にして、俺が知ってる名前と違うね、とは口に出さなかった。
「ね、お腹空いてない?」
「おなかー?」
うーんと一度考え込むように自分の体を見下ろして、「すいた!」と子供は素直に頷いた。
「なんか、なんかね、すっごくお腹、空いてる気がする」
「やっぱりね。俺ちょっとならお菓子持ってるけど、欲しい?」
上着のポケットから非常用の食糧、もっと言えば審神者が養分切れで倒れた時に与える為の携帯食料を取り出して示す。バッと目を輝かせた子供に対し、「ちょっと待ってね」と言いつつ袋を開けてやる。
「はい、これ食べたい人ー?」
「はーい!」
「だったら俺に、何て言えばいいか分かる?」
「えっと、お菓子ください、きよおにいちゃん」
「そこだけちょっと媚売ったのね。分かった。じゃあそんなに賢いなら、これから俺のいう事ちゃんと聞けるよね?」
「きくー!」
「よろしい」
やったー、と満面の笑みを浮かべ、審神者は両手で加州の差し出したお菓子を受け取る。その様子に、頭の中身は完全に子供に戻っていることを改めて確認する。激しすぎるギャップに順応している自分も自分だが、果たしてこれがまた元に戻った時にいったいどんな顔をすればいいのか、そんなことを考えて加州は内心頭が痛くなる。
バキ、と子供がチョコレート味のエネルギーバーを前歯で折る。自覚はしていなかったようだが、体は元の改造された審神者のままだ。霊力を生み出す為に常人の倍近くも燃費が悪く、ひっきりなしに食べていないとすぐに身動きが出来なくなる、それを本人が分からないとなると、周りの大人、ここでは加州が気を付けてやるしかない。手がかかる子、と思いながら、唇についているチョコの欠片をぐいと指先で拭ってやると、子供は嬉しそうに「へへ」と笑った。
「ありがと、きよちゃん」
「いいよ。お世話するのが今の俺の役目みたいだし」
「でも、おやつの時間、よく分かったねぇ」
「それは……俺の知り合いも燃費が悪いーとかいっていつもお腹すかしてるからさ、そうなのかなって思って」
「くいしんぼう?」
「そーね。まぁ、それは霊力吸ってる俺らのせいでもあるんだけどさ。……食い意地張ってて、そのくせ妙なこだわりがあって、俺が何回言っても米がとげなくなるから絶対に爪紅はやらないって聞かなくてね」
「んー、変なの」
「変?」
「きよちゃんの爪、きれーなのに。私は嫌って言わないよ?」
「……ああ、そう。やっぱりそう思ってくれてるんだ」
「なにが?」
「なんでもないよ」
我慢がまんじゃ体に悪い、って言うのにね、と。そういつもの軽口で言いそうになるのを寸での所で押さえ、誤魔化すように子供の髪をぐしゃぐしゃと撫でてかき回した。



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しばらく審神者は大人しく遊んでいた。
元々がそれほど暴れる性質でもないのか、床の上にぺたりと足を開いて座ったまま、加州があれやこれや話してやるだけで満足そうだった。「きよちゃん」という言葉の響きや、屈託なく笑う顔にはいまだ慣れてはいないが、少なくとも不愉快ではない。
あの人も子供すきだったし、と言い訳のように加州は思う。しかし自分が普段の斜に構えた姿勢は一切忘れ、とことん甘い顔になっていることには気が付いていなかった。

「お風呂にはいろう」
見た目は審神者、中身は幼女がそれを言い出したのは突然だった。
ああそう、お風呂ね、とそのままの調子で加州は繰り返したが、はたとその意味に気が付いて「風呂?」と呟く。見た目は加州と並んでもなんら違和感なく、しっかりと立てるし歩ける背丈の人間なのだが、いまは中身がおそらく一桁の子供だ。
「風呂って、俺も?」
「きよちゃん、いっしょじゃないの?」
「……もしかして、ひとりで入れない?」
「だめ?」
「いやダメっていうか……」
駄目にきまってんだろ、というツッコミはぐっと堪えた。小さい子供をひとりで入浴させるのが常識外れだとは、刀の加州でも分かっている。しかしそれはあくまで二次性徴もきてるかきていないかの段階の話であり、こう、完全に見た目と中身が不釣り合いの状態に適用されるものかは分からない。できないことはない。元々お互いにそんなことは気にしていない。だが、果たして正気に返った時、そこまで世話されたと知った審神者のダメージはどれくらいか考えると、流石にすぐには頷けないものがあった。
「……わたしといっしょなの、いやかな」
「んー、いやじゃないんだけどね。そっちはむしろ、恥ずかしくないの?」
「ぜんぜん?」
「全然ときたよ」
「おふろー」
「あーもう……」
加州の右手を掴んでぶんぶんと振り回すさして背丈の小さくない審神者を前に、赤い瞳が天を仰ぐ。

脱衣所に着いた途端に服を脱ぎ捨てた審神者に、躊躇う様子は一切なかった。
ワイシャツのボタンに戸惑う様子もなく、「ちょっと待って」と心の準備ができていなかった加州を置いてさっさと下着姿になる。だが流石に、胸を覆っている下着の外し方までは分からなかったのか、「きよちゃんー?」と助けを求める顔で加州の方を振り返る。この間、刀はその場から一歩も動けていなかった。
「ねー、これ、どうやって外すの?」
「……よりにもよって俺に訊く?」
「他に誰もいませんよー?」
「いや確かに居たら困るんだけどね。……背中に金具があると思うんだけど、できない?」
「んんー?」
子供はぐぃと首を後ろに回すが、構造上内側についている金具は目で見えない。手を伸ばしてしばらく格闘するが、指で触っても仕組みは分からなかったのか、困った様子で再度「きよちゃーん」と声を上げる。
「わかんないから、とって?」
「無理」
「できないことはないでしょー」
「いや無理だから、俺が。俺そこまで触れないから」
「うぅ……」
眉を八の字にし、子供はいかにも悲しそうな顔をする。そんなに風呂に入りたいのか、それとも加州に見捨てられた気がして嫌なのか。わざわざ目を逸らしながら自分の服を脱いでいた加州の元へ、子供はぺたぺたと足音をたててやってきて、いま脱ごうとしているワイシャツの胸元へがっしりと縋りつく。
「きよちゃん、ねぇ」
「……いや、お願いされても」
「どうしてもだめ?」
中身は子供でも体はそのままだ。脱衣所の壁に背中をつけた加州を更に押し倒す様な格好で、審神者は目に涙をいっぱいに溜め、加州のことを見上げてくる。布一枚隔てた向こう側に感じる体の感触に思わず視線を明後日の方向へとやるが、「ねぇ」と涙混じりに訴える声は無視できない。
「……元に戻ったら、覚えててよ」
「うぅ?」
「ああもう、分かったから!分かったからちょっと幼女は離れて!」
見た目以上に屈強な付喪神の力で審神者の体をべりっと引き剥がし、そのまま真後ろへとひっくり返す。加州自身ただ知識として知っているだけで実際にやったことはないのだが、いつまでも幼女任せにしておいても埒が明かない。覚悟を決めて、「んー?」と動こうとする肩に両手を置いて黙らせる。
元に戻った際の名誉のために、ここはあまり見ないでおこうと心に決めた。だが運悪く、脱衣所の真正面には鏡があり、目線を上げればきょとんとしている子供の顔と、その後ろで眉根を寄せている自分の顔が見えてしまう。
彼女はしげしげと、まるで不思議なものでもみるように自分の体を見つめていた。それは、その筈だ。違和感こそないようだが、子供に戻った頭では見慣れないものが今の審神者の体には沢山ある。例えば膨らんだ乳房であったり、米神から項へと走る手術の痕であったり、肩の消えない大傷であったり、だ。
「……きたないね」
ぼそりと、子供はそう漏らした。大きく見開かれた目が、鏡の中の自分につけられた大小幾つもの傷をじっと見つめている。
加州は僅かに目を細め、それからすぐに首を振った。
「綺麗だよ」
両肩を掴む手に、僅かに力がこもる。嘘を言っているつもりはなかった。
「大人しくしてればここまで傷はつかなかったのに、それでも頑張った結果がこれ。だから、汚いなんてことはない。だいじょうぶ、いつだって綺麗だから」
「でも、嫌」
「俺が“好き”って言っても嫌?」
「んー……」
「俺が好きって言う人のことを嫌いっていうんなら、俺悲しくて、ホントに嫌いになっちゃうかも」
「それは、すっごく嫌」
「ならいいじゃん」
「いいのかなぁ」
いいんだよ、となおも渋る子供をはぐらかし、下着の背中の金具をぐいっとひっぱって外す。そして間髪入れずにバスタオルを巻いてなにも見なかったことにした。おぉ、と肩を動かした子供の足元に、肩ひもを外された下着がぼとりと落ちる。加州はさっと目を逸らし、その体から身を退いた。
「ありがと、きよちゃん」
「どーいたしまして」
「……あと、好きって言ってくれて」
「え」
やや俯き、両側の髪が顔に掛った格好で、真っ直ぐな視線だけが加州を見る。
子供のいう事だとは分かっていた。だが改めて、普段なら意地でも口にしないことを言ってしまったことを思い出して、加州はやや熱くなった顔を手で抑えた。

(その後めちゃくちゃ入浴した)


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「ほら、髪拭くよ」
「ふくー」
「気を遣わないのは分かってるけどさ、乾かさないと痛むからね。今くらいちゃんとして」
「はーい」
髪の先から滴が滴るままでテンション高く歩いて行こうとした審神者の肩を捕まえ、ぼす、とバスタオルを頭にのせる。審神者は着替えたシャツのボタンが殆ど留まっていないのも気にせずきゃっきゃとはしゃぎ、加州の方へと身をすり寄せてくる。
「……ほんっっっとに、元に戻ったら覚えててよ?」
「もとー?」
「あぁいいよ、幼女は気にしないで。それよりほら、髪」
こっちきて、と、加州は床の上へ座り、自分の脚の間に座らせる。素直に従う彼女の首筋には濡れた髪がはりつき、耳の後ろからうなじまでがひどく無防備に晒されていた。
タオルを膝の上においたまま手を伸ばす。すると触れるか触れないかの位置で、子供の肩が大きく跳ねた。
「いや…っ!」
身を縮ませ、恐怖に目を見開き、殆ど悲鳴に近い声だった。だが、咄嗟の事だったのだろう。立ち上がった子供は自分の声に驚いたように口を押さえると、加州を見る。
「ごめんなさい」
頭を振り、心底怯えた声で、目に涙をいっぱいに溜めて彼女は言った。
「ちがうの、……きよちゃんがこわかったんじゃなくて、わたし、」
「いいよ、言わなくて。俺の方こそ悪いことしたね」
だいじょうぶ?と、今度は驚かさないように優しく、真正面からその顔を指で拭う。今度は子供も逃げずに、そして心底ほっとした顔でその手を受け入れた。ごめんねぇと、頭からすっぽりタオルに覆われてフニャフニャになった声が言う。
「……やっぱり、後ろからは怖いんじゃん」
顔が見えないままに嬲られたから、と。
子供になっても消えない記憶に、救われない思いで奥歯を噛む。そして腹いせとばかりに、今は子供になっている背中に腕を回してぎゅっと抱き寄せた。
「ぅ」
「だいじょーぶ、俺はなんもしないから、ね?」
再びびくりと跳ね上がった肩を、力任せに腕の中に閉じ込める。
「俺の顔、見えてれば怖くないでしょ」
正確には、そうであって欲しいと願っていた。試したことはなかったが、今ならできそうな気がしていた。抵抗など出来ない体勢で閉じ込めて、それでも動揺して嗚咽を漏らしていた背中から、次第に力が抜けていくのを感じて安堵する。怯えるくらいならばやらなければ良いと分かっていながら、ゆるくなっていく心音に、どこか泣きたい気持ちで安堵していた。
「……だいじょうぶ、だいじょうぶだから」
今回のこの事態だけではなく、最初から欠陥だらけでとても手のかかる審神者だった。
霊力が足りなくなれば倒れ、戦場では無茶をして怪我を負い、兵法の基礎については殆ど一から加州が教えたようなものだった。燃費が悪く、機能は足らず、夜は悪夢にうなされる。審神者としての評価はお世辞にも高いとは言えない。
だけどその代り、審神者は加州の全てを引き受けた。顕現に繋がるまでの一連の過去、彼が刀として死を迎えた際の記憶ですらも飲み込んで、既に幽世に漂うばかりだった彼の魂をこの世界へと引っ張り出した。
よく笑う審神者だった。取り繕った笑顔だけではなく、加州がしてやったほんの些細な親切でさえ、とても幸せそうに微笑んで礼を言うような主だった。申し訳なさそうに、だけど嬉しそうに。
付喪神の彼らにそんな必要は無いと言うのに、人間と同じだけ手のかかった料理を作った。美味しいと言えば喜んだし、好き嫌いを示せばもっと喜んだ。まるで人間扱いだ、と加州は思ったが、嫌な気分はしなかった。そう思われたかったのかもしれないし、そう思いたかったのかもしれない。
審神者は加州がどんなにボロボロになっても決して手を離さず、自分の手首を切って血を垂らし、必ず元の通りに治してみせた。いつしかそれを当然だと思っていた。見捨てられることなど決してないと、信じていた、
人は弱い。そして加州の今の主も格別に弱い人間だった。
今は子供だからまだ素直に怖がったり欲しがったりしてくるが、普段ならば絶対にこうはいかない。加州の方が気付いて手を差し伸べるまで、絶対に弱音は吐いてこない。
頼られていない、という訳ではないのは分かっていた。ただ、遠慮のような、強がりのような、その最後の一線が崩れない。無理やりに寄り掛からせれば引き倒すことになってしまう。だからこそ、加州の方もただひたすらに耐えていた。
「……きよちゃんは優しいねぇ」
耳慣れぬ呼び声が耳を叩く。濡れた髪に顔を埋めながら「やりかえしてるだけだよ」と、加州は小さく呟いた。



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あ、だる、と思った時にはもう手遅れだった。人間でいう疲労にも似た感覚だが、付喪神の彼にとってはそれはもっと根源的な問題、即ち体を構成する要素にして動力源、霊力の枯渇を意味している。見た目はそのまま完全に幼女と貸した審神者と遊んでいるうちに、知らず知らずに力の巡りが悪くなっていたらしい。
このせいかな、と、加州に後ろから抱きかかえられた状態で手遊びをしている審神者を見て思う。難しい理論については加州もよく分かっていが、要するに彼と彼女を結び付けている物は一種の契約、魂同士の連結だ。それが一方にバグが生じてしまった為、その結びつきが消えはせずともなにかしら具合が悪くなってしまったのだろう。供給される霊力が活動するのに十分な量には足りず、少づつ全身の機能に障害が生まれてくる。
今この場で、この子供を一人ほっぽりだすわけにはいかない。しかしこの問題を解消する方法はただひとつ、どこからか霊力を仕入れてくることに他ならなかった。どうする、と重たくなってきた頭で加州は考える。自然界にも霊力が湧いている場所はそれなりにあるが、そこでじっと回復を待っている時間は無い。
「……きよちゃん?」
ボス、と後ろから肩に頭をのせてきた加州に対し、彼女はぐいと首を反らして、逆さまにその顔を覗き込んだ。
「どうしたの、ねむいの?」
「ん、まぁ、そんなもんかな。ごめんね、肩借りて」
「いいけど、だいじょうぶ?一緒に寝る?」
「……ありがと。でも平気、心配しないで」
んん、と言葉にならない声をだし、彼女は加州の方へと向き直ると、その顔を両手でつかんで「きよちゃん」と少し強い口調で言った。
「だめだよ、いわなきゃ」
真剣な目で、鼻と鼻がぶつかるくらいに顔を近づけて、彼女は言った。
「つらいときはちゃんといわないとダメ。がまんしてもダメなものはダメなんだから、ね?」
子供は本気で怒っていた。加州は呆気にとられた様にそれをまじまじと見つめ、やがて「どっちがだよ」と小さく悪態をついた。それはいつも嘘を吐く審神者に対して、加州が散々言ってきた台詞の筈だった。まるで子供にいうように、と、妙な皮肉に顔をしかめる。少しだけ泣きそうな顔で、「ごめんね」と加州は彼女の手の平に両手を重ねた。
「実はさ、ちょっと疲れちゃったんだ」
「わたしのせい?」
「そうじゃないよ。俺も悪いの。……いっつもね、俺はあんたから元気を分けてもらっててさ。それがちょっと足りなくなって、それでね」
「元気、あげればいいの?」
「でもその方法がね……」
こういった時、平素の彼女なら躊躇いなく血を使った。霊的素質に乏しい審神者でも血液を介せば呪術の効率をあげることができる、と言って、平然と熱したナイフを自分の腕に押し当てるのだ。今だって加州の頬に触れる指から続く手首の内側にはリストカットまがいの傷が癒え切らないまま生々しく残っている。傷、そこから滴る血の味を加州はよく知っているが、それでも今は幼いこの子供に、それを強いる気はさらさらなかった。
「……ごめんね、きよちゃん」
加州が黙っているので怖くなったのだろう、子供は顔をくしゃりと歪め、本当に申し訳なさそうに肩を落とす。そんな顔をさせたい訳ではないのに、どうにもままならない。「だいじょうぶ」と言って、加州はその体を抱きしめた。押し当てられる胸も、くびれた体の線も完全に大人のそれなのに、精神だけが幼いままで震えている。いつもこれくらい素直ならいいのに、と、場違いな考えが頭の隅をよぎっていた。
「ねぇ」
「なに?」
「俺のこと、好き?」
「きよちゃんのこと?」
「そう。俺のこと、嫌いになっちゃったりしない?」
「しないよ。きよちゃんのこと、私、好きだもん」
「……そう」
加州は手を伸ばすと彼女の頬に手を添えた。見開かれた目の縁で、涙をいっぱいに湛えた睫毛が震えている。
「ごめん、ゆるしてね」
そう一言つげて、何かを言いつけた口に加州は唇を押し付けた。そして「きよちゃ、」と馴染まぬ名前を呼ぼうとする口の隙間に、舌の先を割り入れる。「ぁ」という声を共に、口の端をだらりと生温いものが伝っていった。
血液ほどではないが、唾液もつまり体の一部、舐めとればその結びつきから霊力が吸い出せる。驚いて固まる体をあやすように撫で、更に歯の隙間をこじ開ける。
卑怯なことをしているという思いはあったが、飢餓にも似た、どうにも抑えきれないものがあり、




(満足したのでおわる)




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